TikTok Shopの全容解説:EC事業者なら知っておくべき次世代ECプラットフォーム

動画を“見るだけ”の時代は終わりました。TikTok上で完結する購買体験「TikTok Shop」が、いよいよ日本市場に本格参入します。エンタメとECが融合したこの新しい仕組みは、従来の検索→購入という購買行動を「発見→購入」へと一変させ、特に若年層を中心に高いコンバージョンを記録しています。
2025年6月に国内正式ローンチを迎え、既に海外では6兆円超の流通を生み出すなど急拡大を続けるTikTok Shop。既存のAmazonや楽天との競合ではなく、補完的な集客チャネルとして活用する企業も増えています。本記事では、TikTok Shopの仕組みから戦略的な活用法まで、EC事業者が今押さえるべきポイントを徹底解説します。
目次
1. TikTok Shopとは何か?
2. 日本市場における導入スケジュールと最新動向
3. TikTok Shopの5つの主要機能
3.1 Shoppable Video(ショッパブルビデオ)
3.2 LIVEコマース
3.3 ショーケース(Product Showcase)
3.4 ショップタブ(Shop Tab)
3.5 アフィリエイト機能
4. 従来ECとTikTok Shopの決定的な違い
4.1 アクセス源の構成
4.2 購買プロセスの短縮
4.3 エンターテイメント性の融合
6. Amazon等既存ECとの連携可能性
7. 導入時の費用構造と投資対効果
7.1 手数料体系
7.2 投資対効果の考え方
8. 成功事例から見る運用のポイント
8.1 海外成功事例の分析
8.2 成功パターンの共通点
8.3 日本市場での運用ポイント
- まとめ
1. TikTok Shopとは何か?
TikTok Shopは、世界で月間アクティブユーザー10億人を超えるTikTokプラットフォーム上で展開される、動画コマース機能です。従来のECプラットフォームとは異なり、「見る・触れる・買う」の距離を大幅に短縮した新しい購買体験を提供します。
日本国内では、TikTokの月間アクティブユーザー数が3,900万人(TikTok Liteも含む)に達しており、その構成は18-24歳が32%、25-34歳が24%、35歳以上が44%となっています。特筆すべきは、75.2%のユーザーがTikTokの動画を見た後に商品を検索し、36.2%が実際に美容商品を購買した経験があるという高いコンバージョン率です。
TikTokが検索エンジンとしても大きな影響力を持っていることは見逃せません。「I Don't Google Anymore. I TikTok.」というフレーズが示すように、特に若年層にとってTikTokは情報収集の主要なチャネルとなっています。
2. 日本市場における導入スケジュールと最新動向
TikTok Shopは2025年6月に日本で正式サービス開始が予定されています。すでに米国、英国、東南アジアで展開中で、2024年の世界全体の流通取引総額(GMV)は400億ドル(約6兆1000億円)を突破しました。
初年度の日本市場における想定流通総額は3,000億円と予測されており、これは直近のTikTok経由消費額(約1,700億円)をベースに、他国のTikTok Shop成長率を加味して算出された数値です。Amazon年商の7〜10%、または楽天市場年商の7〜10%が初年度の推定年商とされています。
海外市場では、米国において各SNS上でAmazonの商品を直接購入できる仕組みも導入されており、「Project Handshake」として知られる戦略的提携により、SNSショップとAmazonは共存することに焦点を当てています。
3. TikTok Shopの5つの主要機能
3.1 Shoppable Video(ショッパブルビデオ)
動画内に商品リンクを埋め込み、視聴者が「おすすめ」フィードで商品を発見し、数タップで購入まで完了できる機能です。従来の「認知→検索→購入」のプロセスを「発見→購入」に短縮します。
3.2 LIVEコマース
リアルタイムでの商品紹介・販売機能です。配信者と視聴者の双方向コミュニケーションを通じて、商品の詳細説明や質問対応が可能で、高いエンゲージメントとコンバージョン率が期待できます。
3.3 ショーケース(Product Showcase)
プロフィールページに商品を展示するEC機能です。企業アカウントやクリエイターアカウントから直接商品購入が可能で、ブランドイメージ構築にも有効です。
3.4 ショップタブ(Shop Tab)
TikTokアプリ内専用のマーケットプレイスです。ユーザーの興味関心に基づくパーソナライズされた商品推薦機能により、受動的な商品発見を促進します。
3.5 アフィリエイト機能
販売者とインフルエンサーをシームレスに繋ぐコミュニケーション設計です。「販売価格の○○%」での設定でアフィリエイターを募集可能で、オープン型・クローズ型の2種類から選択できます。
4. 従来ECとTikTok Shopの決定的な違い
4.1 アクセス源の構成
TikTok Shopへのアクセス構成比は、ショッパブルビデオが70%、ライブコマースが15%、モール機能が15%となっています。この数字が示すように、動画経由の売上が圧倒的多数を占めるのが特徴です。
4.2 購買プロセスの短縮
従来のECでは「認知→検索→比較→購入」のプロセスを経ますが、TikTok Shopでは「発見→購入」わずか2タップで完了します。この購買プロセスの短縮により、ユーザーの関心を引く時間はわずか3秒とされています。
4.3 エンターテイメント性の融合
TikTok Shopは「Shoppertainment(ショッパーテインメント)」と呼ばれる、エンターテイメントとショッピングを融合させた新たな購買体験を提供します。これにより、従来の商品検索型ではなく、商品発見型の購買行動を促進します。
5. TikTok Shop運用における戦略的アプローチ
5.1 企業規模別運用戦略
大企業向け戦略:ブランド好意形成とLTV向上を重視し、世界観を統一した指名買い戦略を展開。CSRや企業文化も含めたブランディング重視型のアプローチが有効です。
中小企業・D2Cスタートアップ向け戦略:短期間での認知・売上の両立を目指し、共感・応援を軸にしたファン育成戦略を採用。プロセスエコノミーのような開発背景や創業者ストーリーを重視します。
5.2 4つの運用アプローチ
- 自社アカウント運用:自社のTikTokアカウントでのコンテンツ投稿(最大5アカウント)
- クリエイター連携:ギフティングやアフィリエイトを通じたクリエイターへの投稿促進
- ライブコマース:リアルタイムでの商品紹介・販売
- モール運用:TikTokアプリ内モールのSEOやクリエイティブ対策
5.3 コンテンツ戦略のポイント
ショップへのアクセス源の7割がショッパブルビデオとなるため、全体的なアカウント運用が重要です。単なるショップ作成ではなく、動画コンテンツを中心としたエコシステム構築が成功の鍵となります。
6. Amazon等既存ECとの連携可能性
TikTok Shopでは、様々なeコマースプラットフォームとの連携が可能です。特にAmazonとの関係では、米国において「Project Handshake」という戦略的提携により、SNSショップはAmazonのECシェアを奪うのではなく、共存することに焦点を当てています。
実際に、TikTokでの運用・配信を強めるほど動画が拡散され、認知やアクセスがTikTokショップだけでなく、Amazon等の他販路にも波及する効果が確認されています。これにより、TikTok Shopは既存ECの競合ではなく、相互補完的な関係を築くことが可能です。
7. 導入時の費用構造と投資対効果
7.1 手数料体系
海外の事例から、日本版TikTok Shopでは初期費用や月額費用は無料で、販売手数料のみが発生する構造が予想されます。初期段階では手数料率約5%程度で、新規参入促進のため1〜2%の優遇手数料が適用される可能性があります。
参考として、各国の手数料体系は以下の通りです:
- 英国:初期5%(新規90日間は1.8%)→現在9%
- 米国:初期割引キャンペーン実施→現在8%
- 東南アジア:カテゴリ別5〜20%(一般的な商品カテゴリでは5〜10%台)
7.2 投資対効果の考え方
TikTok Shopの導入により期待される効果は以下の通りです:
- 検索前の潜在顧客へのリーチ:従来のAmazonや楽天での購買層とは異なる、検索に至る前の膨大な潜在顧客にアプローチ可能
- 効果測定の明確化:TikTokから直接購入に至るため、SNS施策の売上インパクトを明確に分析可能
- 購入検討層への最後の一押し:動画による豊富な情報提供とリアルタイムでの疑問解消により、検討中ユーザーの背中を押すことが可能
8. 成功事例から見る運用のポイント
8.1 海外成功事例の分析
Cuza Candies(米国フリーズドライキャンディーブランド)
- 売上:広告経由で約24,000ドル達成
- ROAS:2倍を記録
- 販売件数:900件以上
MySmile(米国オーラルケアブランド)
- 売上:3ヶ月以内に100万ドル以上達成
- ROAS:3倍を維持
- CPA:自社ウェブサイト比較で80%削減
8.2 成功パターンの共通点
海外成功事例の共通点として、以下の要素が挙げられます:
- 動画ベースの商品訴求:商品の魅力を視覚的に伝える高品質な動画コンテンツ
- クリエイター/UGC活用:アフィリエイト機能を活用したインフルエンサーとの協業
- アプリ内決済による離脱ゼロ:TikTok内での完結した購買体験の提供
8.3 日本市場での運用ポイント
日本市場特有の要素を考慮した運用ポイントは以下の通りです:
消費者特性への対応:日本の消費者は情報収集に時間をかける傾向があるため、商品の詳細情報やレビューを充実させることが重要
文化・トレンドの考慮:日本独自の文化や流行を考慮したきめ細やかなマーケティング戦略が必要
ライブコマースの段階的導入:海外比較で日本のライブコマース普及はまだ途上のため、段階的なアプローチが有効
まとめ
TikTok Shopは、従来のECプラットフォームとは一線を画す「発見型コマース」の新時代を切り開くサービスです。2025年6月の日本導入を控え、現在準備を進めている企業が先行者利益を獲得できる重要な時期です。
既存のAmazonや楽天などのECプラットフォームとの競合関係ではなく、相互補完的な関係を築きながら、新たな顧客層へのリーチと売上拡大を実現する戦略的ツールとして位置づけることが重要です。
動画コンテンツを中心としたエコシステム構築、アフィリエイト機能を活用したクリエイター連携、そしてライブコマースによるリアルタイム接客など、TikTok Shopならではの特性を理解した運用が成功の鍵となるでしょう。
監修者 : 田中 謙伍
株式会社GROOVE 代表取締役
慶應義塾大学環境情報学部卒業後、新卒採用第1期生としてアマゾンジャパン合同会社に入社。出品サービス事業部にて2年間のトップセールス、マーケティングマネージャーとしてAmazon CPC広告スポンサープロダクトの立ち上げを経験。株式会社GROOVEおよび Amazon D2Cメーカーの株式会社AINEXTを創業。立ち上げ6年で2社合計年商50億円を達成。
【登録者数 5万人のYouTubeチャンネル】
たなけんのEC大学:https://www.youtube.com/@ec8531
執筆者 : 松岡 孝明
株式会社GROOVE マーケティング事業部
大学卒業後、大手百貨店に就職。店頭での販売やマーケティング経験を積んだ後、ECコンサルティング事業を行なう企業へ転職。現在は株式会社GROOVEにて、マーケティングを担当。EC運営に関するお役立ち情報の発信や、セミナーの企画などを行なっています。