AMCを活用した定期おトク便の戦略:データ分析で売上を最大化する方法

Amazonにおける売上の安定化やLTV(顧客生涯価値)向上を目指す上で、「定期おトク便」は有力なプロモーション手段です。しかし、すべての商品に適用すれば成果が上がるわけではありません。初回購入だけで解約されるケースも多く、見えにくいコストが膨らむリスクも内在しています。
こうした課題を解決する鍵となるのが、Amazon Marketing Cloud(AMC)の活用です。AMCを通じて購買データや行動パターンを可視化すれば、F1離脱率(初回で解約される割合)や継続率といった重要指標をもとに、費用対効果の高い戦略を構築することが可能になります。本稿では、定期おトク便の最適化に向けたAMC分析について解説致します。
1. Amazon Marketing Cloud(AMC)と定期おトク便の基本理解
Amazon定期おトク便は、顧客が特定の商品を定期的に購入できる便利なサブスクリプションサービスです。このサービスにより、販売者にとってはリピーターを増やし、安定した売上を確保する手段となります。しかし、すべての商品が定期便に適しているわけではなく、適切な分析を行わなければ、効果が限定的になってしまうこともあります。
定期おトク便では最大15%の割引が適用され、FBAを利用している出品者が参加できる仕組みとなっています。2021年10月からの新仕様により、対象商品は基本割引0%で自動登録され、3点以上のおまとめ配送時にはAmazonが追加で5%の割引を提供しています。
Amazon Marketing Cloud(AMC)を活用することで、定期おトク便の購買データを詳細に分析し、顧客の購買行動を深く理解することが可能になります。AMCは直近13か月分のデータを反映するため、短期的なトレンド分析に適したツールといえます。
2. AMCによる定期おトク便データ分析の重要性
定期おトク便はいつでも解約できるため、1回もリピートされない場合は単なる値引き提供になってしまいます。そのため、リピート率を把握し、適切な施策を講じることが不可欠です。
AMCを活用することで、以下の重要な指標を分析できます:
- 定期便の継続率と解約率
- リピート購入の傾向
- 顧客の購買行動パターン
- プロモーション施策の効果測定
データ分析により、定期便に適さない商品を特定し、プロモーション費用の無駄を削減できます。また、継続率の高い商品を把握することで、より効果的なマーケティング戦略を構築することが可能となります。
3. Amazon Insightsを活用したデータ取得方法
AMCのPaid Featuresで提供される有料データセット「Amazon Insights」を導入することで、定期便経由の購買データを詳細に分析できるようになります。これにより、定期便を利用する顧客の購買行動をより深く理解し、マーケティング施策の最適化に役立てることが可能です。
Amazon Insightsに含まれる「Amazon Flexible Shopping Insights」を活用すると、定期便を含むすべての購買データが記録された「conversions_all」テーブルを利用できます。このテーブルでは、定期おトク便の購買に関して、一連の購買であることを示す「サブスクリプションID」を用いてデータを確認できます。
conversions_allテーブルには以下のような情報が含まれています:
- user_id:ユーザー識別子
- conversion_id:コンバージョン識別子
- event_subtype:イベントタイプ(サブスクリプション登録、初回注文、リピート注文)
- sns_subscription_id:サブスクリプションID
- total_product_sales:商品売上
このデータ構造により、定期便利用者の購買パターンを詳細に追跡し、分析することが可能となります。
4. F1離脱率分析による効果測定
定期便の具体的な分析方法の一つとして「F1離脱率」があります。F1離脱率とは、定期便経由の初回購入後、2回目の購入に至らなかった注文の割合を示す指標です。
定期便はいつでも解約可能であるため、F1離脱が発生すると初回購入割引のみの提供に留まり、利益に結びつきにくくなります。そのため、商品やカテゴリーごとにF1離脱率を可視化し、離脱率の高い商品を特定してプロモーション方法の見直しを図ることが重要です。
F1離脱率の分析では、横軸にF1離脱率、縦軸に定期おトク便登録数をプロットします。F1離脱率が高く、なおかつ定期おトク便登録数が多い商品は、無駄なプロモーション費が発生している可能性があるため、定期おトク便の適用を見直す必要があります。
5. 定期おトク便の最適化戦略
AMCのデータ分析結果を基に、以下の最適化戦略を実施します。
商品カテゴリー別戦略
定期便に適した商品とそうでない商品を明確に分類します。日用品、食品、化粧品などの消耗品は一般的に定期便に適していますが、商品によって継続率は大きく異なります。
割引率の最適化
AMCのデータから各商品の継続率を分析し、適切な割引率を設定します。基本割引0%から10%まで選択可能で、3点以上のおまとめ配送時にはAmazonが5%の追加割引を提供するため、この仕組みを活用した戦略立案が重要です。
配送頻度の調整
商品の消費サイクルに合わせて推奨配送頻度を設定し、顧客の利便性を向上させます。1〜6か月ごとの配送頻度設定が可能であり、商品特性に応じた最適な提案が継続率向上につながります。
6. プロモーション費用の効率化手法
AMCのデータ分析により、プロモーション費用の効率化を図ります。
ROI重視の商品選定
F1離脱率が低く、継続購入が期待できる商品に重点的にリソースを配分します。これにより、限られた予算で最大の効果を得ることが可能となります。
広告連携の最適化
定期おトク便対象商品は、スポンサーディスプレイ広告で割引率のタグが表示されるため、広告効果の向上が期待できます。AMCのデータを活用して、広告とのシナジー効果を測定し、最適な組み合わせを見つけます。
LTV向上施策
継続率の高い商品群に対して追加のマーケティング投資を行い、顧客生涯価値(LTV)の最大化を図ります。Amazonの直販部門のデータによれば、定期おトク便利用者は平均4回以上のリピート購入を行っているため、この傾向を活用した戦略が効果的です。
7. データに基づく商品選定基準
AMCの分析結果から、以下の商品は一般的にF1離脱率が高くなる傾向があることが判明しています。
消費サイクルが不安定な商品
一定のペースで消費されない商品は、顧客が次回の購入をキャンセルしやすくなります。趣味用品や季節限定商品などがこれに該当し、定期便よりも単品購入促進が適しています。
使用頻度が低い商品
使用頻度が少なく、定期的な補充が不要な商品は、定期便としての魅力が低くなります。高額な耐久消費財や長期間使用できる商品は、別のプロモーション手法を検討すべきです。
代替品への切り替えが容易な商品
競争が激しい市場では、顧客が他ブランドに移行しやすく、定期便の継続率が低くなることがあります。シャンプーやスキンケア商品などのコモディティ品では、ブランドロイヤルティ向上施策との組み合わせが重要です。
これらの特徴を持つASINについては、定期便ではなく単品購入の促進や、クーポン・広告施策など別のプロモーション手法を検討することが有効です。
8. 継続的な改善サイクルの構築
AMCを活用した定期おトク便戦略は、継続的な改善が重要です。
月次レビューの実施
AMCのデータを月次で分析し、F1離脱率や継続率の変化を監視します。市場環境や競合状況の変化に応じて、戦略の調整を行います。
A/Bテストの実施
異なる割引率や商品組み合わせでのA/Bテストを実施し、最適な設定を見つけます。AMCのデータにより、テスト結果の詳細な分析が可能となります。
季節性の考慮
商品によっては季節による需要変動があるため、AMCのデータから季節性パターンを把握し、それに応じた戦略調整を行います。
競合分析との組み合わせ
定期おトク便の設定状況を競合と比較し、市場での位置づけを確認します。差別化戦略の立案にAMCのデータを活用します。
まとめ
AMCを活用した定期おトク便戦略は、データに基づく科学的アプローチにより売上最大化を実現する手法です。F1離脱率の分析を中心とした効果測定により、プロモーション費用の最適化と継続率向上の両立が可能となります。
定期おトク便は消費者にとって便利かつお得な注文方法であり、出品者にとっても売上の安定化に寄与する有効なプロモーション手段です。しかし、いつでも解約できるため、初回購入のみでリピートが行われない場合、単なる値引きになってしまいます。
AMCとAmazon Insightsを活用することで、定期おトク便のF1離脱率を把握し、相性の良い商品のみに設定することが可能となります。これにより、定期おトク便にかかるプロモーション費の最適化を実現し、持続可能な成長戦略を構築できます。
継続的なデータ分析と改善サイクルの実施により、競合他社との差別化を図り、Amazon市場での優位性を確立することが重要です。AMCの豊富なデータを活用して、効果的な定期おトク便戦略を展開していきましょう。
監修者 : 田中 謙伍
株式会社GROOVE 代表取締役
慶應義塾大学環境情報学部卒業後、新卒採用第1期生としてアマゾンジャパン合同会社に入社。出品サービス事業部にて2年間のトップセールス、マーケティングマネージャーとしてAmazon CPC広告スポンサープロダクトの立ち上げを経験。株式会社GROOVEおよび Amazon D2Cメーカーの株式会社AINEXTを創業。立ち上げ6年で2社合計年商50億円を達成。
【登録者数 5万人のYouTubeチャンネル】
たなけんのEC大学:https://www.youtube.com/@ec8531
執筆者 : 松岡 孝明
株式会社GROOVE マーケティング事業部
大学卒業後、大手百貨店に就職。店頭での販売やマーケティング経験を積んだ後、ECコンサルティング事業を行なう企業へ転職。現在は株式会社GROOVEにて、マーケティングを担当。EC運営に関するお役立ち情報の発信や、セミナーの企画などを行なっています。