Amazon Marketing CloudでのRFM分析活用ガイド:データドリブンなマーケティング戦略の実現
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ECビジネスの成功において、顧客の購買行動を正確に把握し、それに基づいた効果的なマーケティング戦略を展開することは極めて重要です。Amazon Marketing Cloud(AMC)の進化により、Amazon上でもRFM分析が可能となり、より高度で精密な顧客分析とデータドリブンなマーケティング施策の実現が期待できます。
本記事では、Amazon Marketing Cloudを活用したRFM分析の基本から実践的な活用方法まで、詳細に解説していきます。
目次
1. Amazon Marketing Cloud とは
Amazon Marketing Cloud(AMC)は、Amazonが提供する高度なデータ分析プラットフォームです。広告主はAMCを活用することで、Amazon内外の顧客行動データを統合し、マーケティング施策の効果を詳細に分析できます。特にAMCは、個別の広告効果測定にとどまらず、顧客の行動パターンを把握し、将来的な意思決定に役立つインサイトを提供します。
有料データセットサービス「Paid Features」の一部であるAmazon Insightsを導入すると、広告接触の有無に関係なく、自社商品の定期便を含む全購買データを取得できるconversions_allテーブルにアクセス可能となります。この豊富なデータを活用することで、従来のRFM分析をさらに発展させた、より精密な顧客分析が実現できます。
2. RFM分析の基本概念
2.1. RFM分析とは
RFM分析は、顧客を「最終購入日(Recency)」「購入頻度(Frequency)」「購入金額(Monetary)」の3つの指標で分類し、グループ化する分析手法です。それぞれの指標の頭文字をとってRFM分析と呼ばれています。顧客の性質に合わせたマーケティング施策を立案するために役立ち、顧客分析の基本と言われています。
2.2. 3つの指標の詳細
Recency(最新購入日) Recencyは、顧客が最後に商品を購入した日から現在までの経過日数を指します。顧客の最終購入日が最近であるほど、Recencyの値は小さくなります。値が小さいほど、最近購入した顧客、つまり購買意欲が高い顧客であると判断できます。
Frequency(購入頻度) Frequencyは、顧客が一定期間内に商品を購入した回数です。値が大きいほど、頻繁に購入する顧客、つまり優良顧客であると判断できます。
Monetary(購入金額) Monetaryは、顧客が一定期間内に商品を購入した合計金額です。値が大きいほど、購入金額の高い顧客、つまりLTV(顧客生涯価値)が高い顧客であると判断できます。
3. Amazon Marketing CloudにおけるRFM分析の特徴
3.1. 豊富なデータソースの活用
AMCを活用したRFM分析では、Amazon内外の顧客行動データを統合して分析を行うことができます。従来のRFM分析では、企業が保有する購買データのみを活用していましたが、AMCでは広告接触データや閲覧履歴なども含めた総合的な分析が可能です。
3.2. リアルタイムデータの活用
AMCのオーディエンス機能により、RFM分析の結果は1日に1回自動で更新されるため、ユーザーのランク変化に即応した広告配信が可能です。これにより、常に最新の顧客状態に基づいたマーケティング施策を展開できます。
3.3. 過去13か月のデータ制約
データ分析を行う場合は、AMCには過去13か月分のデータしか反映されないことに注意が必要です。特にF1ユーザーは必ずしもブランド新規ユーザーではなく、あくまで過去13か月で1回しか購入していないという意味になります。
4. AMCを活用したRFM分析の実装手順
4.1. データの収集と準備
AMCでRFM分析を行うには、まずconversions_allテーブルから顧客の購買データを取得します。必要なデータは主に顧客ID、購入日、購入金額、購入回数です。Amazon Insightsを導入することで、広告接触の有無に関係なく、自社商品の定期便を含む全購買データにアクセスできます。
4.2. RFM指標の算出
顧客データをRFM分析に活用するには、それぞれの指標を数値化し、比較できるようにする必要があります。AMCでは、SQLクエリを使用してこれらの指標を自動的に計算できます。
Recency(最新購入日)の算出 顧客が最後に商品を購入した日から現在までの経過日数を算出します。最終購入日が昨日の顧客はRecency = 1、1週間前の顧客はRecency = 7となります。
Frequency(購入頻度)の算出 過去13か月間で顧客が商品を購入した回数を集計します。3回購入した顧客はFrequency = 3となります。
Monetary(購入金額)の算出 過去13か月間で顧客が商品を購入した合計金額を算出します。合計10万円購入した顧客はMonetary = 100,000となります。
4.3. 顧客セグメントの定義と分類
AMCでは、R(Recency:最新購入日)、F(Frequency:購入頻度)、M(Monetary:購入金額)の3つの指標をもとに顧客を分類します。それぞれの指標をランク分けし、その組み合わせによって顧客セグメントを定義します。
リーセンシーとフリークエンシーをそれぞれ3つに分類し、合計9つの顧客ランクを作成するのが一般的です。例えば、以下のような顧客ランクを定義できます:
- ロイヤル顧客:Recency30日以内、Frequency3回以上、Monetary平均の2倍以上
- ライト顧客:購入回数は少ないが最近購入している顧客
- 休眠顧客:Recency120日以上、Frequency3回以上
4. 4. 各セグメントの特徴分析
AMCによって顧客を分類することで、それぞれの顧客層に適した効果的なマーケティング施策を検討できます。ブランド別に売上とユーザー数のシェアを確認でき、各顧客ランクの購買傾向を具体的に把握できます。
5. 顧客ランクに応じた広告配信戦略
5.1. オーディエンス機能の活用
AMCを活用して自社商品の購入ユーザーを顧客ランクごとに分類したら、それぞれのランクに応じた最適な広告プロモーションを実施します。具体的には、AMCのオーディエンス機能を使って顧客ランク別のセグメントを作成し、Amazon DSPやスポンサー広告に連携してセグメントごとに適したクリエイティブを配信します。
5.2. ロイヤル顧客向けプロモーション
継続的に商品を購入し続けているロイヤル顧客に対しては、自社の他商品を訴求するクロスセルキャンペーンが有効です。ロイヤル顧客はユーザー数が少なくても売上への貢献度が高いため、一人当たりの購入金額を上げることで全体の売上を押し上げることができます。
また、ロイヤル顧客の類似ユーザーに対してアプローチすることも重要です。AMCのユーザー拡張機能を活用してオーディエンスを作成し、ロイヤル顧客に購買傾向の似た新規ユーザー獲得を目指します。
具体的な施策としては以下が挙げられます:
- 特別割引やプレミアムクーポンの提供
- 新商品の先行案内
- VIP限定イベントへの招待
- 高価格帯商品の優先的な紹介
5.3. ライト顧客向けプロモーション
購入回数の少ないライト顧客に対しては、広告のリーチ不足による離脱を防ぎ、次回のリピート購入の確率を上げることが重要です。商品の購入サイクルに応じて、購入から45日~60日後を目安にAmazon内外で集中的に再アプローチを行うことで、リピート率を高めることができます。
ライト顧客向けの施策例:
- 継続購入を促すクーポンの配信
- 商品の使用方法や活用事例の紹介
- 定期便サービスの案内
- 関連商品のレコメンド
5.4. 休眠顧客向けプロモーション
過去に商品を購入したものの、バナー広告に複数回接触しているにもかかわらずリピートしなくなった休眠顧客には、通常のリターゲティング広告とは異なるアプローチが必要です。例えば、動画広告を活用して再認知・商品理解を促進する方法が有効です。さらに、セールやクーポンと組み合わせることで、休眠顧客の再活性化を図ります。
休眠顧客向けの具体的施策:
- 特別割引クーポンの配信
- 新商品の案内
- ポイント付与キャンペーンの実施
- アンケートの実施によるニーズの把握
- 動画広告による再認知促進
6. AMCによるRFM分析の実践的活用事例
6.1. パーソナライズされた商品レコメンド
AMCはRFM分析を活用し、顧客一人ひとりに最適な商品レコメンドを提供することで売上向上につなげています。顧客の購買履歴や閲覧履歴などの行動データに加え、RFM分析で得られた各顧客の属性データを用いることで、より精度の高いパーソナライズされた商品提案を可能にします。
例えば、最近購入がなく、購入頻度も低い顧客(休眠顧客)には、かつて購入した商品と関連性の高い商品や、割引クーポン付きのおすすめ商品を提示することで再購入を促します。一方、購入金額が高く、頻繁に購入するロイヤルカスタマーには、新商品や高価格帯の商品を優先的に紹介することで顧客単価の向上を目指します。
6.2. ターゲティング広告配信
AMCではRFM分析を用いて、顧客ごとに最適な広告を配信することができます。例えば、Recencyが高い顧客には、新商品や話題の商品をいち早く紹介することで購買意欲を高めることができます。一方、Frequencyが高い顧客には、これまで購入履歴のある商品と関連性の高い商品や、リピート購入を促進するための割引クーポンなどを提示する広告が効果的です。
また、Monetaryが高い顧客には、より高価格帯の商品や、プレミアム会員限定の特典などを紹介する広告を配信することで、顧客単価の向上を図ることができます。
6.3. カゴ落ち対策の自動化
AMCを活用することで、カゴ落ち対策をより効果的に自動化できます。RFM分析の結果に基づいて、顧客セグメントごとに最適なリマインダーメールや特別割引クーポンを自動配信することで、購入完了率の向上を図ることができます。
商品をカートに入れたまま購入手続きを完了していない顧客に対して、その顧客のRFMランクに応じた最適なアプローチを自動的に実施することで、より高い効果が期待できます。
7. AMCでのRFM分析における注意点
7.1. 指標設定の適切化
AMCでRFM分析を行う上で、指標設定の適切化は非常に重要です。指標設定を適切に行うことで、より精度の高い顧客セグメントを作成でき、効果的なマーケティング施策の実施につながります。
各指標の閾値設定は、事業内容や顧客の購買特性によって異なります。例えば、購入頻度が高い商材を扱っている場合は、最終購入日(Recency)の閾値を短く設定する必要があります。一方、高額商品や購入頻度の低い商材の場合は、購入金額(Monetary)を重視する必要があるでしょう。
7.2. 分析期間の設定
AMCでは過去13か月分のデータしか利用できないため、分析期間の設定には特別な注意が必要です。この制約を理解した上で、適切な期間設定を行うことが重要です。
分析期間は、ビジネスモデルや商品の特性によって適切な長さが異なります。例えば、食品などの消耗品を扱う場合、分析期間は短く設定する必要があります。一方、家電製品などの耐久財を扱う場合、分析期間は長く設定する必要があります。
7.3. データの統合と品質管理
AMCを活用したRFM分析では、Amazon内外の複数のデータソースを統合する必要があります。データ形式の統一や欠損値の処理など、データ品質の管理に特に注意を払う必要があります。
また、顧客IDは顧客を一意に識別できるようになっているかを確認しましょう。重複や欠損があると、分析結果の精度が低下する可能性があります。
8. RFM分析の効率化
8.1. 広告ツールのRFM機能
AMCに対応したAmazonレポートの自動化ツールも存在します。例えば、GROOVEではRFM分析を行うためのツールを開発し、Recency(最終購入日)、Frequency(購入頻度)、Monetary(平均購入金額)の3つの軸で顧客をスコアリングしています。
そのスコアリングをもとに、ユーザーを離反顧客、新規顧客などに分類し、セグメントごとの課題の抽出と最適な広告施策を実行を提案しています。
また他にも、「Ubun BASE」では、AMCに対応したAmazonレポートの自動化を行っており、データドリブンな意思決定をサポートするため、RFM分析を活用した詳細な顧客分析や広告戦略の最適化を簡単に実施できます。
8.2. RFMレポートの自動作成
自動化ツールを使用することで、SQLクエリを書くことなく、AMCのRFM分析を利用して、リーセンシーとフリークエンシーをそれぞれ3つに分類し、合計9つの顧客ランクを作成できます。ブランド別に売上とユーザー数のシェアを確認でき、週1回自動的に更新されるため、常に最新の顧客ランクを把握可能です。
8.3. 顧客ランクに基づく広告配信の自動化
作成した顧客ランクを基にAMCオーディエンスを作成し、DSPやスポンサー広告に連携することができます。AMCの機能により、オーディエンスは1日1回更新されるため、顧客ランクに応じた広告配信の自動化が可能です。
9. RFM分析による成果測定と改善
9.1. KPIの設定
AMCを活用したRFM分析の効果を測定するために、適切なKPI(重要業績評価指標)を設定することが重要です。主要なKPIとしては、以下が挙げられます:
- 各顧客セグメントの売上貢献度
- 顧客ランクの移行率(ライト顧客からロイヤル顧客への移行など)
- 広告のROAS(Return On Advertising Spend)
- 顧客生涯価値(LTV)の向上
- リピート購入率の改善
9.2. 継続的な最適化
RFM分析は一度実施すれば終わりではありません。顧客の購買行動は常に変化するため、定期的に分析結果を見直し、セグメント定義や施策内容を最適化することが重要です。
AMCのリアルタイム更新機能を活用することで、顧客ランクの変化をタイムリーに把握し、迅速な施策調整が可能になります。週次や月次での定期的なレビューを実施し、データに基づいた継続的な改善を行いましょう。
10. 今後の展望と発展的活用
10.1. 機械学習との組み合わせ
AMCの豊富なデータと機械学習技術を組み合わせることで、より高度な予測分析が可能になります。顧客の将来的な購買行動を予測し、プロアクティブなマーケティング施策を展開することで、より効果的な顧客管理が実現できます。
10.2. オムニチャネル戦略への展開
AMCで得られたRFM分析の結果を、Amazon以外のチャネルでの施策にも活用することで、一貫性のあるオムニチャネル戦略を展開できます。顧客の購買行動を総合的に把握し、チャネルを跨いだ最適な顧客体験を提供することが可能になります。
11. まとめ
Amazon Marketing Cloudを活用したRFM分析は、従来の顧客分析手法を大きく進化させる強力なツールです。豊富なデータソース、リアルタイム更新機能、自動化されたオーディエンス配信により、これまでにない精度と効率性でマーケティング施策を展開できます。
RFM分析の3つの指標(Recency、Frequency、Monetary)を組み合わせることで、顧客を適切にセグメント化し、それぞれの特性に合わせた最適なアプローチが可能になります。ロイヤル顧客の維持・育成、ライト顧客のリピート促進、休眠顧客の掘り起こしなど、各セグメントに応じた効果的な施策を実施することで、売上向上と顧客満足度の向上を同時に実現できます。
AMCとRFM分析を組み合わせれば、顧客一人ひとりに最適な体験を提供し、LTV(顧客生涯価値)の最大化を実現することができますが、その一方でAMCの活用にはSQLの専門知識などが必要になる場合があります。より高度なアクションをとりたい場合には専門家に相談するのが良いでしょう。
株式会社GROOVEにもAMCに精通したコンサルタントが多く在籍しており、多くの企業様の支援を行う中で、実際にAMCを活用し広告効率の改善や新規獲得において成果を出しています。AMCの活用にお悩みの方は是非一度お問い合わせください。
監修者 : 田中 謙伍
株式会社GROOVE 代表取締役
慶應義塾大学環境情報学部卒業後、新卒採用第1期生としてアマゾンジャパン合同会社に入社。出品サービス事業部にて2年間のトップセールス、マーケティングマネージャーとしてAmazon CPC広告スポンサープロダクトの立ち上げを経験。株式会社GROOVEおよび Amazon D2Cメーカーの株式会社AINEXTを創業。立ち上げ6年で2社合計年商50億円を達成。
【登録者数 5万人のYouTubeチャンネル】
たなけんのEC大学:https://www.youtube.com/@ec8531
執筆者 : 松岡 孝明
株式会社GROOVE マーケティング事業部
大学卒業後、大手百貨店に就職。店頭での販売やマーケティング経験を積んだ後、ECコンサルティング事業を行なう企業へ転職。現在は株式会社GROOVEにて、マーケティングを担当。EC運営に関するお役立ち情報の発信や、セミナーの企画などを行なっています。