Amazon Marketing Cloud を活用した LTV 分析: メーカーのためのデータ活用戦略

Amazon での販売において、広告効果を測定する指標としてよく使われる「ACoS(Advertising Cost of Sales)」。多くのメーカーが広告費用対効果を測る上で重視していますが、この指標だけに頼っていては、長期的な顧客価値や事業成長の全体像を見失う可能性があります。特に、ブランド構築や顧客ロイヤルティ向上を目指す成長フェーズのメーカーにとって、顧客生涯価値(LTV: Life Time Value)の視点を取り入れた分析が不可欠です。
Amazon Marketing Cloud(AMC)の登場により、メーカーは従来よりも深く、かつ包括的に自社の顧客データを分析できるようになりました。本記事では、AMCとは何か、その基本機能から、Total ACoSのみに頼る分析の限界、そしてLTV分析を活用した持続可能な事業成長のアプローチまで詳しく解説します。さらに、AMC 分析を通じて顧客行動の可視化とLTVの因果を捉え、Amazon AMCのデータを活用した長期ROI設計の実務も解説します。
1. Amazon Marketing Cloud(AMC)とは
1.1. AMCの基本概念と特徴
Amazon Marketing Cloud(AMC)は、2020年にAmazonが提供を開始した広告・マーケティングデータ分析プラットフォームです。従来のAmazon広告ダッシュボードでは得られなかった、より詳細かつ包括的なデータ分析を可能にするクラウドベースのサービスとして、広告主やメーカーに新たな視点をもたらしています。
AMCの最大の特徴は、アトリビューション分析の拡張性にあります。従来のAmazon広告管理画面では、広告クリックから直接的に発生した購入(ラストクリックアトリビューション)のみが測定可能でしたが、AMCでは複数のタッチポイントにわたる顧客行動を追跡し、購買に至るまでのパスを可視化することができます。
また、AMCは匿名化されたユーザーレベルのデータにアクセスできる点も重要です。これにより、顧客セグメントごとの行動パターンや、広告接触から購買までの時間経過など、より深い洞察を得ることが可能になります。
1.2. AMCが提供するデータの種類
AMCでは主に以下のような広範なデータへのアクセスが可能です:
- 広告パフォーマンスデータ:Sponsored Products、Sponsored Brands、Sponsored Display、DSPなど、複数の広告タイプにわたるパフォーマンス指標
- 商品閲覧データ:ユーザーが閲覧した商品ページ、商品詳細の表示回数など
- 購買データ:購入された商品、購入金額、購入回数など
- メディア接触データ:Amazon DSPを通じて配信された広告への接触情報
- オーディエンスデータ:購買行動やブラウジング履歴に基づく顧客セグメント情報
これらのデータは、プライバシー保護のため個人を特定できない形で集計・匿名化されていますが、それでも従来のAmazon広告分析ツールと比較すると、はるかに詳細な分析が可能です。
1.3. AMCの利用方法とアクセス権限
AMCへのアクセスは、一定の条件を満たす広告主やベンダーに対して提供されています。主な条件としては:
- Amazon DSPアカウントを保有していること
- 一定の広告支出規模があること
- 専用のNDAに同意すること
などが挙げられます。現在は、広告代理店や大手ブランドを中心に提供されているサービスですが、徐々にアクセス権が拡大されつつあります。
AMCを利用するには、まず専用のAMCワークスペースが提供され、そこでSQLクエリを作成・実行することでデータ分析を行います。SQLの知識がない場合でも、テンプレートクエリを活用したり、専門のAMCコンサルタントやデータアナリストのサポートを受けることで分析が可能です。
2. Total ACoSを追うだけでは不十分な理由
2.1. ACoSとTotal ACoSの違いと限界点
Amazon広告の効果を測定する際、多くのセラーやメーカーが重視する指標がACoS(Advertising Cost of Sales)です。ACoSとは、広告費用を広告経由の売上で割った値で、低いほど効率的に広告費が使われていることを示します。
ACoS=広告費用/広告経由の売上×100%
これに対し、Total ACoSは、広告費用を総売上(広告経由・非広告経由を含む)で割った値です。
Total ACoS=広告費用/アカウント全体の売上×100%
Total ACoSは、広告活動が全体の売上にどれだけ貢献しているかを示す指標として有用ですが、以下のような限界があります。
- 短期的視点に偏重:ACoSもTotal ACoSも基本的には単一期間(通常は7日間や30日間)の指標であり、長期的な顧客価値を考慮していません。
- ブランド構築効果の無視:広告には直接的な売上貢献だけでなく、ブランド認知向上や信頼構築という効果もありますが、これらはACoS系の指標では捉えられません。
- 顧客獲得コストとリピート購買の区別がない:新規顧客獲得のための広告と、既存顧客のリピート購買促進のための広告は区別して評価するべきですが、単純なACoS指標ではこの区別ができません。
- 製品ライフサイクルの無視:新製品のローンチ期と成熟期では適切なACoS水準が異なりますが、画一的な目標設定では製品の状況に応じた戦略が立てにくくなります。
2.2. 短期的視点から長期的視点への転換
従来の広告効果測定は、「広告を出稿して、すぐに売上につながったか」という短期的な視点が中心でした。しかし、持続的な事業成長のためには、以下のような長期的視点が重要です:
- 顧客の生涯価値(LTV):一人の顧客が長期間にわたってもたらす総収益を考慮する視点
- カスタマージャーニー全体:認知、興味、検討、購入、再購入という顧客の行動プロセス全体を把握する視点
- ブランドエクイティ:ブランドへの信頼や愛着、推奨意向など、数値化しにくい価値も含めた包括的な視点
AMCの登場により、これまで分断されていた広告データと販売データを統合し、長期的な顧客行動を追跡することが可能になりました。例えば、ある広告キャンペーンがすぐには高いACoSを示したとしても、その広告に接触した顧客が3か月後、6か月後にリピート購入をすることで、最終的には投資対効果が高かったというケースを把握できるようになります。
2.3. 多様な指標を組み合わせた総合評価の必要性
効果的な広告戦略を構築するためには、単一の指標に頼るのではなく、複数の指標を組み合わせた総合的な評価が必要です。AMCを活用することで、以下のような多面的な分析が可能になります:
- 顧客獲得コスト(CAC)と顧客生涯価値(LTV)のバランス
- 広告接触から購入までの平均時間(タイムラグ効果)
- クロスセル・アップセル効果(例:Aという商品の広告がBという商品の購入にもつながる効果)
- リピート率と顧客定着率
- 新規顧客獲得とリピート顧客維持のコストバランス
これらの指標を総合的に分析することで、「広告効果=即時売上」という単純な図式を超えた、より洗練された広告投資戦略を立てることができます。
3. LTV(顧客生涯価値)分析の基本
3.1. LTVの概念と計算方法
顧客生涯価値(LTV: Lifetime Value)とは、一人の顧客が企業との関係を持っている期間中に生み出す純利益の合計を指します。簡単に言えば、「一人の顧客が生涯にわたって企業にもたらす価値」のことです。
LTVの基本的な計算式は以下の通りです:
$$\text{LTV} = \text{平均購入額} \times \text{年間平均購入回数} \times \text{平均顧客維持年数} \times \text{粗利率}$$
Amazonでの販売においては、以下のようにカスタマイズして考えることができます:
$$\text{Amazon LTV} = \text{平均注文金額} \times \text{年間平均注文回数} \times \text{平均顧客維持年数} \times \text{利益率}$$
ここで重要なのは、LTVは単なる累積売上ではなく、利益を基準に考える点です。広告費や運営コストを差し引いた純利益ベースでLTVを考えることで、より正確な投資対効果を測定できます。
3.2. Amazon環境におけるLTV分析の特徴
Amazon環境でのLTV分析には、いくつかの特徴と課題があります:
- 顧客識別の制限:Amazonではメーカーから直接的に顧客を識別することはできませんが、AMCの匿名ユーザーIDを活用することで、一定レベルの顧客追跡は可能です。
- マルチブランド・マルチ製品環境:顧客は同じブランドの複数製品を購入することがあります。AMCでは、そうしたクロスセリングやアップセリングの効果も含めた分析が可能です。
- 競合環境の影響:Amazon上では常に競合商品との比較が行われるため、顧客維持には継続的な努力が必要です。LTV分析では、競合環境下での顧客離脱率も重要な要素として考慮する必要があります。
- 季節性と製品サイクル:多くの製品カテゴリには季節性があり、また製品自体にもライフサイクルがあります。AMCデータを活用することで、これらの時間的変動要素を考慮したLTV分析が可能になります。
3.3. LTV分析に必要なデータポイント
AMCを活用したLTV分析に必要な主なデータポイントには以下のようなものがあります。
- 購買データ
- 初回購入日
- 購入頻度(平均間隔)
- 購入金額(平均、中央値、分布)
- 最終購入日
- 顧客セグメントデータ
- 広告経由で獲得した顧客か否か
- どの広告キャンペーン・広告タイプから獲得した顧客か
- 購入カテゴリや製品タイプ
- 広告接触データ
- 初回購入前の広告接触回数・頻度
- 購入後の広告接触と再購入の関係
- 広告種別(Sponsored Products、Sponsored Brands等)ごとの効果差
- 時間経過データ
- 顧客維持率(コホート分析)
- 購買頻度の時間的変化
- 平均購入金額の時間的変化
これらのデータを組み合わせることで、単なる「過去の累積売上」ではなく、「将来的に期待できる顧客価値」を予測するモデルを構築することができます。
4. Amazon Marketing Cloudを活用したLTV分析の実践
本章では、AMC 分析の基本ステップ(データ収集→コホート設計→LTV算出→意思決定)を、Amazon AMCのデータセット前提で具体化します。
4.1. AMCを用いたデータ収集と分析の基本ステップ
AMCを活用したLTV分析の基本的な流れは以下の通りです:
- 分析目的の明確化:
- どの商品カテゴリのLTVを分析するのか
- どの広告タイプの効果を測定するのか
- どの期間のデータを分析対象とするのか
- 必要データの収集:
- 広告キャンペーンデータ(DSP、Sponsored Products、Sponsored Brands等)
- 購買データ(注文金額、頻度、商品カテゴリ等)
- オーディエンスセグメントデータ
- コホート分析の設定:
- 初回購入月や獲得広告タイプなど、分析軸となるセグメントを設定
- 追跡する期間(3ヶ月、6ヶ月、12ヶ月など)を決定
- LTV計算モデルの構築:
- シンプルな累積購入額モデル
- 離脱率を考慮した確率モデル
- 製品カテゴリごとの購買パターンを考慮したモデル
- 結果の可視化と解釈:
- コホート別のLTV推移グラフ
- 広告タイプ別の顧客獲得コストとLTVの比較
- 製品カテゴリ間のクロスセル効果の分析
4.2. 顧客セグメント別のLTV比較分析
AMCの強みを活かした分析として、様々な顧客セグメント間でのLTV比較が挙げられます。
- 獲得チャネル別LTV比較
- Sponsored Products経由の顧客
- Sponsored Brands経由の顧客
- DSP広告経由の顧客
- オーガニック流入顧客
- 初回購入商品別LTV比較:
- エントリーモデル(低価格帯)から購入を開始した顧客
- プレミアムモデル(高価格帯)から購入を開始した顧客
- 消耗品 vs. 耐久財を初回に購入した顧客
- 購買頻度・金額別LTV比較:
- 高頻度・少額購入の顧客
- 低頻度・高額購入の顧客
- 高頻度・高額購入のVIP顧客
4.3. 広告効果の時間的変化とLTVへの影響分析
AMCを活用することで、広告効果の時間的変化を捉え、LTVとの関係を分析することが可能になります:
- 広告接触から購入までの時間ラグ分析:
- 広告種別ごとの平均コンバージョン時間
- 接触回数とコンバージョン率の関係
- 広告接触頻度と購入金額の相関
- シーズナリティとLTVの関係:
- 特定シーズン(ホリデーシーズン等)に獲得した顧客のLTV特性
- オフシーズン獲得顧客との比較
- シーズン性の高い商品とそうでない商品の購入パターン
- 再購入促進広告の効果測定:
- 既存顧客向け広告の表示タイミングと再購入率の関係
- 初回購入からの経過時間と広告反応性の関係
- クロスセル広告の効果(製品A購入者への製品B広告など)
5. LTV視点に基づく実践的な広告戦略
5.1. 新規顧客獲得とリピート促進のバランス戦略
AMCのデータを活用したLTV分析に基づき、新規顧客獲得とリピート促進のバランスを最適化する戦略を検討することができます。AMC 分析で抽出した高LTVセグメントを起点に、Amazon AMC連携のオーディエンス配信へ展開することで、予算効率とLTV/CACの両立が可能です。:
- 顧客獲得コスト(CAC)とLTVのバランス評価:
- LTV:CAC比率の算出と目標設定(一般的には3:1以上が健全とされる)
- セグメント別のLTV:CAC比率比較
- 時間経過に伴うLTV:CAC比率の変化
- 顧客獲得フェーズに応じた広告タイプの使い分け:
- 認知拡大フェーズ:Sponsored Brands、DSPの視認性の高い広告
- 検討フェーズ:Sponsored Products、Product Targeting広告
- 再購入促進フェーズ:DSPのリターゲティング広告、Sponsored Display
- 顧客セグメント別の予算配分最適化:
- 高LTV見込み顧客セグメントへの重点投資
- 季節性を考慮した予算の時間的配分
- 新製品導入時と成熟製品のバランス
5.2. 製品ライフサイクルに応じたLTV最大化戦略
製品のライフサイクルステージ(導入期、成長期、成熟期、衰退期)に応じて、LTVを最大化するための戦略も変わってきます。
- 導入期:
- 認知拡大を優先し、高めのACoSを許容
- 早期採用者の特性とLTVを分析し、類似オーディエンス拡張に活用
- レビュー獲得を促進し、社会的証明を構築
- 成長期:
- 競合との差別化を強調する広告メッセージ
- クロスセル・アップセルを促進するための製品ポートフォリオ広告
- LTV:CAC比率の改善を図りながら市場シェア拡大
- 成熟期:
- 効率性を重視し、Total ACoSの最適化
- 既存顧客のLTV最大化(リピート購入、関連商品購入の促進)
- 顧客ロイヤルティプログラムとの連携(Amazonの場合はSubscribe & Save等)
- 衰退期/リニューアル期:
- コスト効率を最優先し、高ROIセグメントに広告を集中
- 新製品へのマイグレーション促進
- 在庫消化と収益性のバランスを考慮した施策
5.3. AMCデータを活用したクリエイティブ最適化
AMCのデータは、広告クリエイティブの最適化にも活用できます:
- 高LTV顧客が反応する広告要素の特定:
- 画像タイプ(製品単体 vs. 使用シーン等)の効果比較
- コピーの訴求ポイント(機能性 vs. 感情訴求等)と顧客価値の関係
- 商品詳細ページの閲覧時間と購買行動の相関
- カスタマージャーニーに応じたメッセージ最適化:
- 初回認知段階:製品カテゴリーやブランドの価値訴求
- 検討段階:競合との差別化ポイントの明確化
- 再購入促進段階:ロイヤルティ強化や新たな使用シーン提案
- クロスセル・アップセル促進のためのクリエイティブ戦略:
- 製品間の関連性を強調した広告表現
- 使用シーンの拡張を促す提案型メッセージ
- 製品ポートフォリオ全体のブランドストーリー構築
6. AMCとLTV分析の実装における課題と対応策
6.1. データ統合と分析の技術的課題
AMCを活用したLTV分析を実施する上での技術的課題とその対応策について考えてみましょう:
- SQLスキルと分析リソースの確保:
- 課題:AMCはSQLベースのインターフェースであり、専門的なスキルが必要
- 対応策:
- AMCコンサルタントや分析専門会社との協業
- テンプレートクエリの活用と段階的なカスタマイズ
- 社内データアナリストの育成と知識共有
- 長期データの蓄積と一貫性の確保:
- 課題:LTV分析には長期間のデータ蓄積が必要だが、AMCのデータ保持期間には制限がある
- 対応策:
- 定期的なデータエクスポートと社内データウェアハウスでの保管
- 分析基準の一貫性を保つためのデータ処理ルールの文書化
- 過去データと新規データを統合するためのETLプロセスの構築
- 複数のAmazonマーケットプレイスにまたがる統合分析:
- 課題:グローバル展開している場合、国・地域ごとのAMCデータの統合が必要
- 対応策:
- 国際的なデータ標準の設定(通貨換算、時間帯調整等)
- グローバル顧客IDの概念導入による国をまたいだ顧客行動の追跡
- 地域特性を考慮した分析パラメータの調整
6.2. プライバシー規制とデータ活用のバランス
データプライバシーの観点からも、AMCを活用したLTV分析には留意点があります:
- 個人データの匿名性確保:
- AMCのデータは基本的に匿名化されていますが、複数のデータセットを掛け合わせることによる再識別リスクには注意が必要です
- 分析結果の集計レベルを適切に設定し、過度に詳細なセグメント化を避けることが重要です
- 地域ごとの規制対応:
- GDPR(EU)やCCPA(カリフォルニア州)など、地域によって異なるデータプライバシー規制への対応
- 地域特性に合わせたデータ利用ポリシーの策定と運用
- 透明性とユーザー信頼の確保:
- データ活用の目的と価値をステークホルダーに明確に伝達
- プライバシーを重視した分析アプローチの採用(必要最小限のデータ利用)
6.3. 組織的な導入と活用のためのステップ
AMCとLTV分析を組織に効果的に導入し、活用していくためのステップを考えてみましょう:
- 段階的な導入アプローチ:
- フェーズ1:基本的なAMCデータ分析と既存指標との整合性確認
- フェーズ2:シンプルなLTVモデルの構築と検証
- フェーズ3:高度なセグメント分析と予測モデルの導入
- フェーズ4:自動化されたデータパイプラインと意思決定プロセスへの統合
- クロスファンクショナルな協業体制:
- マーケティング部門:広告戦略とクリエイティブ開発
- 分析部門:データ処理と洞察抽出
- 製品開発部門:顧客インサイトの製品改善への活用
- 経営層:長期的な投資判断とKPI設定
- 継続的な学習と改善サイクル:
- 定期的な分析レビューと仮説検証
- 業界ベンチマークとベストプラクティスの参照
- AMCの新機能や分析手法のキャッチアップ
7. まとめ:LTV視点でのAmazon広告戦略の未来
7.1. 短期的指標から長期的価値への視点転換
Amazon広告の世界でも、単純な短期的指標(クリック率、コンバージョン率、ACoS)から、顧客の長期的価値を重視する方向への転換が進んでいます。この変化は以下のような意義を持ちます:
- 持続可能な事業成長の基盤構築:
- 短期的な数字の追求による「消耗戦」からの脱却
- 顧客資産としてのLTVの重視と顧客関係の深化
- 競争優位性の源泉としてのデータ活用:
- AMCなどの高度な分析ツールを活用した深い顧客理解
- データに基づくターゲティングとクリエイティブ最適化の精緻化
- ブランド価値とパフォーマンスマーケティングの融合:
- 短期的なコンバージョン最適化と長期的なブランド構築の両立
- 顧客体験全体を通したブランドストーリーの一貫性確保
7.2. 総合的な成功指標としてのLTV/CAC比率
LTVとCAC(顧客獲得コスト)の比率は、Amazon広告投資の健全性を測る重要な指標となります:
- 理想的なLTV/CAC比率:
- 一般的には3:1以上が持続可能なビジネスの目安とされる
- 製品カテゴリや事業ステージによって適正比率は変動
- LTV/CAC最適化のための戦略ポイント:
- CAC削減:ターゲティング精度向上、クリエイティブ最適化、入札戦略の効率化
- LTV向上:リピート率向上、平均購入金額増加、クロスセル促進、顧客満足度向上
- 資金調達や事業評価における重要性:
- 投資家や経営判断においても、単なる売上成長率よりもLTV/CAC比率が重視される傾向
- 長期的な事業価値を示す指標としての活用
7.3. これからのAmazonマーケティングにおけるAMCとLTV分析の重要性
AMCとLTV分析は、今後のAmazonマーケティングにおいてますます重要な役割を果たすでしょう。重要なのは、AMC 分析を継続運用し、Amazon AMCで得た示唆をクリエイティブ/入札/配分に素早く反映する“学習ループ”を回し続けることです:
- Amazon広告エコシステムの進化:
- より多様化・精緻化するAmazon広告プラットフォーム
- オンライン・オフラインを統合したオムニチャネルデータの活用可能性
- AIと機械学習の活用拡大:
- 予測モデルの高度化によるLTV予測の精度向上
- パーソナライズされた広告体験と顧客価値の最大化
- パートナーシップとエコシステム構築:
- Amazon、ブランド、代理店、分析プロバイダーの協業深化
- 顧客を中心としたエコシステム全体での価値創造
8. 実践のためのアクションプラン
8.1. AMCとLTV分析導入のためのロードマップ
AMCとLTV分析を自社のAmazonマーケティングに導入するための具体的なステップを以下に示します:
- 準備フェーズ(1-2ヶ月):
- AMCアクセス権の申請と取得
- 分析目的と主要指標(KPI)の明確化
- 必要なスキルと人材・ツールの確認と準備
- データ構築フェーズ(2-3ヶ月):
- 基本的なAMCクエリの作成と実行
- 顧客セグメント定義とコホート設計
- 初期LTVモデルの構築とテスト
- 分析と最適化フェーズ(3-6ヶ月):
- 広告タイプ別、セグメント別のLTV分析
- LTV/CAC比率に基づく予算配分最適化
- クリエイティブとターゲティング戦略の改善
- 統合と拡張フェーズ(6ヶ月以降):
- 定期的なデータ更新と分析レポートの自動化
- 他のマーケティングチャネルとの統合分析
- 予測モデルの精緻化と意思決定プロセスへの組み込み
8.2. 部門横断的な協業体制の構築
AMCとLTV分析を効果的に活用するためには、部門を超えた協業体制が重要です:
- 主要ステークホルダーと役割:
- マーケティングチーム:戦略立案、キャンペーン設計、予算管理
- データ分析チーム:AMCクエリ作成、データ処理、インサイト抽出
- 商品開発チーム:顧客インサイトの製品改善への活用
- 上級管理職:長期的投資判断と組織的サポート
- 効果的なコミュニケーション体制:
- 定期的な分析レビューミーティング
- 分かりやすいダッシュボードとレポート共有
- 横断的なプロジェクトチームの組成
- スキルギャップの解消:
- AMCデータ分析のための社内トレーニング
- 外部エキスパートの活用(コンサルタント、代理店など)
- データリテラシー向上のための継続的な教育
8.3. 継続的な改善と学習のサイクル確立
LTV分析とその活用は一度限りのプロジェクトではなく、継続的な改善サイクルとして取り組むことが重要です:
- PDCAサイクルの確立:
- Plan:仮説と戦略の設定
- Do:施策の実行とデータ収集
- Check:LTVと関連指標の分析
- Act:次の施策への反映と改善
- テスト&ラーンの文化醸成:
- 小規模なA/Bテストの継続的実施
- 失敗からの学びを評価する組織文化
- データに基づく意思決定の習慣化
- 最新トレンドのキャッチアップ:
- Amazon広告プラットフォームの新機能追跡
- 業界のベストプラクティス共有イベントへの参加
- 専門コミュニティやフォーラムでの情報交換
おわりに:データ時代のAmazonブランド成長
Amazon Marketing Cloud(AMC)を活用したLTV分析は、単なる分析手法を超えて、Amazonでのビジネスのあり方を根本から変える可能性を秘めています。短期的な広告効果指標に縛られず、顧客との長期的な関係構築と価値創造に焦点を当てることで、持続可能な成長基盤を築くことができるでしょう。
Total ACoSのような短期的指標にのみ着目していた時代から、顧客の生涯価値(LTV)という長期的視点への転換は、多くのブランドにとって容易ではありません。しかし、Amazon環境が成熟し、競争が激化する中で、この転換はもはや選択肢ではなく必須となりつつあります。
AMCという強力なツールを手に入れた今こそ、データに基づく精緻なマーケティング戦略を構築し、競争優位性を確立する絶好の機会です。LTV分析を中心としたデータドリブンなアプローチが、Amazonでのブランド成長と顧客価値最大化の鍵となるでしょう。
最後に、AMCとLTV分析は目的ではなく手段であることを忘れないでください。最終的に目指すべきは、顧客に真の価値を提供し、持続的な関係を構築することです。データと分析は、その実現を支援するための強力なツールなのです。
監修者 : 田中 謙伍
株式会社GROOVE 代表取締役
慶應義塾大学環境情報学部卒業後、新卒採用第1期生としてアマゾンジャパン合同会社に入社。出品サービス事業部にて2年間のトップセールス、マーケティングマネージャーとしてAmazon CPC広告スポンサープロダクトの立ち上げを経験。株式会社GROOVEおよび Amazon D2Cメーカーの株式会社AINEXTを創業。立ち上げ6年で2社合計年商50億円を達成。
【登録者数 5万人のYouTubeチャンネル】
たなけんのEC大学:https://www.youtube.com/@ec8531
執筆者 : 松岡 孝明
株式会社GROOVE マーケティング事業部
大学卒業後、大手百貨店に就職。店頭での販売やマーケティング経験を積んだ後、ECコンサルティング事業を行なう企業へ転職。現在は株式会社GROOVEにて、マーケティングを担当。EC運営に関するお役立ち情報の発信や、セミナーの企画などを行なっています。